ReCent Medical News
2023年6月
心拍変動
就業不能保険の主観的状態を評価する客観的な診断法
ウェアラブル技術の登場により、心拍変動(HRV)を素早く、簡単に、かつ効率的にモニタリングできるようになっています。HRVのデータフィードは、保険金請求者の機能的能力を主治医が正確に評価するための貴重な手段になる可能性があります。
臨床的診断は、保険金請求者の状態を医学的に管理する基準です。しかし、保険金支払査定では、就業のための機能的能力を評価し、把握することが最も重要です。診断名のみでは就業のための機能的能力を評価する決定的な要素にはなりません。
就業不能保険のクレーム管理においては、機能的能力に重点を置き、請求者ができないことではなく、できることに最も注目するべきです。
保険金支払査定で主観的な状態を評価する際に、就労不能とする保険金請求者の主張が真実であるかどうかを見極めるには、常に不確実性が伴います。このような点を評価するために根拠となる客観的な機能評価ツールが求められていますが、依然として課題があります。
ウェアラブル技術は、査定者が保険金請求者の機能的能力をより正確に把握し、請求者が段階的に就労再開を検討し、就労を再開できる回復過程に到達しているかどうかを判断する際に、有用な客観的指標となるでしょうか。
保険金請求者がウェアラブル技術のデータフィードを利用して、診断された疾患に関連する機能的能力の変動をうまく自己管理することができるでしょうか。
Source: Viggiano, Michelle, June 3, 2019 – AIM Human Performance 9
HRVとは
HRVは運動能力の最適化に広く使用されていますが、保険金支払査定やリハビリテーションに適用することもできます。
自律神経系の「フィットネス(健康状態)」、すなわち身体の回復能力を示す指標として、HRVは強力なツールとなることが証明されています。生活上のストレス要因や全般的な健康状態に関して、身体がどのように対応しているかを客観的な示す指標となります1。
HRVスコアが低い場合は、慢性疲労、慢性痛、抑うつ状態、線維筋痛症、過敏性腸症候群など、健康に関わる様々な状態に関連していると考えられています2, 3, 4, 5 。HRVスコアが高い場合は、一般的に神経系の反応が良好で、順応性があり、活発に活動し、環境に対して素早く適切に反応することを示しています6, 7。
HRVは、活動システムと休息システムのバランスが良好ではないことを示し、神経系が一方に偏っていることを示唆することもあります8。このような状況は能力の低下を示すもので、ストレス耐性とそれに関連する回復力が低下していることを示す徴候です。したがって、保険金請求者が休息を取り、マインドフルネスを実践し、深呼吸をし、自己管理を行う必要があることを示す指標となります。
以上のような要素を考慮すると、HRVはエクササイズフィジオロジストがリハビリテーションやワークコンディショニングのプログラムで利用することができる客観的な指標であると考えられます。HRVは運動プログラムが役に立っているか、むしろ支障になっているかを示唆し、運動処方の方向性を提示し、回復に影響を及ぼしている他の生活習慣や医療上の他の要因に対する対処の必要性に焦点を当てます。HRVを利用する主治医は、客観的なリアルタイムのデータを用いることで、主観に基づく状態管理状況が向上している様子をより確実に把握することができます。
査定者やリハビリテーション担当者は、HRVの情報を利用して、適切なリハビリテーション支援や就労準備プログラムが提供されるように、保険金請求者およびその主治医と緊密に協力することができ、それにより、請求者は健康を取り戻し、保険会社は保険金の費用を削減することができます。
インタビュー
Brad Domek, Director, Specialised Health社
保険金請求管理にHRVを利用する可能性について理解を深めるため、当社はオーストラリアとニュージーランドにおけるHRV利用のパイオニアであるSpecialised Health社とチームを組んでいます。
以下に、同社のDirectorであるBrad Domek氏のHRVに関する詳細なインタビューを掲載します。
HRVの記録を利用するとどんなメリットがありますか
「Specialised Health社は、HRV記録を主に利用する2つの異なるプログラムを開発しました。『Headstrong』は、メンタルヘルスの問題を抱える人に対する運動の処方を、HRVを利用して最適化するリハビリテーションプログラムです。『Bounce』は、慢性疲労またはがんに関連する疲労に悩む人の機能向上を目指した12週間の疲労管理プログラムです。これらプログラムの参加者は、プログラムの実施前と後に日常生活の様々な点に関して自己評価するように求められます。たとえば、現在の社会的交流のレベルに対する満足度、ストレスを管理する自身の能力、睡眠の質などです。特に2つの領域が注目に値します。1つは他者による補助なしに状態を自己管理する能力、もう1つは『高揚と落ち込み』の傾向を特定する能力です。参加者の多くは2~3年以上にわたって問題を抱えていたにも関わらず、わずか12週間のプログラム実施後に、上述の指標でそれぞれ33%と34%の改善を記録しました。この結果が示しているのは、プログラム実施前と比べて、はるかに力強く、独立して、問題に対する特効薬を求めるのではなく、自分の状況に対して責任を持って前進しようとする参加者の姿です。そして、これはHRV記録を利用して得られる多くのメリットのうちのほんの1例です。」
Specialised Health社の確立されたエクササイズフィジオロジー(EP)プログラムに、どのような経緯でHRVが組み込まれることになったのですか。
「2016年にSpecialised Health社のエクササイズフィジオロジストがプロサッカークラブを対象にストレングス&コンディショニングプログラムを実施しました。パフォーマンスの高いチームに対して、トレーニング後の回復向上を目指した様々な手法を実践していました。HRVはアイアンマン、トライアスロン、ローイングなどの耐久スポーツのトレーニング補助として利用できることを示す強力なエビデンスがあるため、手法の1つで選手のHRV測定値に注目したのです。同時に、慢性疲労症候群、ウイルス感染後の疲労、がんに関連する疲労など様々な疲労の症状に悩む実際の患者さんも幅広く対象としました。機能スペクトラムの中の参加者の位置付けは様々ですが、私たちが求める成果は類似していますから、HRVを利用できる可能性が高いことが話題になったのです。
話を2022年まで進めると、クライアント用プログラムの多くに非常に有効な測定ツールとしてHRVを組み込み、各患者さんに最適化したリハビリテーションプログラムを提供することが可能になっています。その結果、筋力や全身の健康状態、全般的な機能を築き上げる患者さんの能力が大きく向上しています。当社のHRV利用は、当初の疲労に悩む人々に留まらず、メンタルヘルスの問題を抱える人、がんからの回復途上にある人、自己免疫の問題に悩む人にも広がっています。今後はさらに広く適用できるようになるものと考えています。」
HRVを利用するエクササイズフィジオロジープログラムは、実際にはどのようなものですか。
「リハビリテーションプログラムの一環としてHRVを測定する患者さんは、スマートフォンに接続したチェストストラップを利用して毎朝HRVを測定します。この測定値を基に、患者さんの自律神経系の状態を把握し、最近遭遇した様々なストレス要因に対して自律神経系がどのように反応したかを知ることができます。
通常3~4週間の初期期間に患者さんの日常生活活動(ストレス要因)とストレス後の回復期間を観察した後に、目標のレベルを定めた特定の追加的ストレスを、構造化した活動または運動プログラムという形で患者さんの日常に負荷します。」
Specialised Health社のエクササイズフィジオロジーのプログラムでHRVを利用すると、エクササイズフィジオロジー単独の場合と比べて、全体的な機能改善の点で、どのような成果が得られますか。
「日ごろから運動をしている人や運動選手などトレーニングを積んでいる人に対するプログラムでは、特定の負荷に耐えられるかどうかを選手の認識に基づいて判断し、トレーニングメニューの負荷を上げるかどうかの決定プロセスで、そのような認識を参考にすることも許されるでしょう。運動選手はこれまでに多くのトレーニングをこなし、様々な負荷のトレーニングを経験していることが多く、そのトレーニングの結果、体がどのように感じるかを観察してきているわけですから、自身の体と高度に「調和して」いると考えられています。そのため、負荷に耐えられるかどうかについて運動選手が主観に基づき報告した結果は信頼のおける情報であり、それに基づいた判断をしてもよいと考えられるでしょう。
しかし、このような考え方が当てはまらないことも多く、実際、選手による主観的報告が信頼できるものでなかったために、過剰なトレーニングを行ったり、怪我が起こったりすることがあります。
臨床現場でも運動選手の場合と同じように仮定した場合、すなわち、多くの場合はトレーニングを受けておらず体調を崩していることの多い患者さんが、負荷に耐えられるかどうかを主観的に報告した結果を完全に信頼したとして、その主観的報告とそれに基づき処方したプログラムが正確なものになる可能性は、はるかに低いでしょう。
HRVは、臨床医がトレーニングメニューに加えるべき適切な追加的負荷量を判断する際に、検討可能な客観的な付加的データを提供します。患者さんがトレーニングに耐えられるレベルを上げ、機能をさらに向上させるためには、通常、追加する負荷の程度を正確に見極めることが重要なポイントです。」
HRVの利用による実際の成果
Domek氏提供の実践例
例1
医師の女性。慢性疲労症候群との闘いの中で、ペース配分や運動とリラックスをどう最適化するかについて重要な知見を得ました。
「HRVを利用したペース配分を学べたことは、非常に有益でした。また、体の声を聞いて、休息と瞑想を行う許可を自分自身に与えることを学べたことは、とても貴重でした。」
事例についてはSpecialised Health社のウェブサイトから検索できます。
例2
以下は、メンタルヘルスの問題である心的外傷後ストレス症候群(PTSD)に悩む患者さんを対象とした、疲労への対処法を確立するエクササイズフィジオロジープログラムの例です。
全例についてはSpecialised Health社のウェブサイトからお読みいただけます。
次のステップ
Hannover Life Re of Australasia 社は観測的パイロットプログラムを開始しており、メンタルヘルスの問題を抱え、就業不能保険の請求をした人を対象に、6~9ヵ月間の評価を実施する予定です。このパイロットプログラムの目的は、EPプログラムにHRVを組み込むことで保険金請求者の機能の改善がこれまでよりも早くなるかどうかについて理解を深めることです。
もう1つ重要な成果として、EPとHRVを組み合わせることによって、機能が改善し、持続的な就労に復帰することが期待できる保険金請求者の特徴を特定する可能性を探ります。
このパイロットプログラムは今後 Headstrong という名称になります。
あらゆる機能向上プログラムの最終的な目標は、保険金請求者が健康を取り戻し、その結果、より早く、持続的な就労に復帰することができるようにすることです。メンタルヘルスの領域は非常に主観的なものであるため、HRVやその他のバイオフィードバックを利用して、機能評価にある程度の客観性を持たせるように勧めています。
“仮定は重要だが、調査はもっと大切”
Mark Twain
今後
この論文の第2部では、初期的な観察研究の結果を紹介し、EP プログラム内での HRV の使用だけでなく、代償環境内での HRV の適用についても重要な結論を提供します。
参考
参考情報はこちらから here.
本稿に関するお問い合わせは 河野秀弥 L&H Senior Manager Hannover Re Services Japan
著者
June Khaw
Rehabilitation Consultant
Hannover Life Re of Australasia
Mark Wise
Technical Claims Team Manager
Hannover Life Re of Australasia
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