生命再保険-データ分析部門ジェネラル・マネージャー、インリン・チャン博士(Dr. Yinglin Zhang)とのインタビュー
「データの世界に飛び込むことで、洞察の宝庫が開かれ、絶え間なく発展するチャンスが生まれます。
データは新たな金であり、生命保険会社や医療保険会社は膨大な量のデータを管理しています。これは、リスクとその管理方法を再検討するために、この資源を掘り起こす絶好の機会です。マーケティング上の意思決定の精緻化、予測能力の向上、IoTの活用にとどまらず、データ分析を使ってビジネス戦略を再定義することがブームとなってます。しかし、これにはデータの責任ある利用、個人情報保護、利用国における規制への対応といった課題がつきまといます。このインリン・チャン博士への詳細なインタビューでは、データが保険会社のために何ができるのか、現在と将来について詳しく見ていきます。
生命保険・医療保険業界において、なぜデータとデータ分析が重要なのですか?
データとデータ分析は、常に保険ビジネスの中心にありました。しかし、分析手法の高度化とデータ収集、保存、処理の技術的進歩を組み合わせることで、保険業界をさまざまな形で変革する新たなチャンスが生まれつつあります。また、こうした新たなチャンスが模索されるにつれ、データの価値はますます高まっていきます。
生命保険・医療保険におけるデータ分析とは具体的にどのようなもので、どのようなスキルが求められるのですか?
生命保険・医療保険におけるデータ分析とは、統計学やコンピュータ・サイエンスの手法を、収集した関連データに適用することにより、保険事故を描写・予測し、最終的には保険ビジネスの意思決定をサポートすることを目的としています。これは技術的な問題だけでなく、人間の理解や領域に関する知識、適切なモデリング手法の決定に大きく依存していることを強調しておきたいです。ビジネス・インテリジェンスが過去のデータの理解に限定され、ITのトピックであることが多いのとは対照的に、データ分析は未知の将来の事象に対する洞察を得ることを目的としており、モデリングに重点を置いています。データアナリティクスは、分析手法を作るための数学的・統計的モデリング、インフラとプロセスフローを提供するためのIT知識、ビジネスの背景を理解するための保険数理的知識を組み合わせています。生命保険・医療保険における効果的なデータ分析には、この3つすべてが不可欠です。
データ分析と人工知能(AI)は同じですか?
データ分析はAIの文脈で語られることが多いですが、必ずしも同義ではありません。データ分析はAIモデルを利用することもありますが、必ずしも利用する必要はありません。実際には統計モデルの一種となる機械学習モデルは、構造的な複雑性を追加し、交差検証による自動調整、いわゆる「自己学習プロセス」を導入します。今日の技術の進歩により、膨大な量のデータを収集、保存、処理することが可能になり、複雑なモデルの処理が可能になりました。しかし、複雑さが増すと、特にいわゆる「ブラックボックスAI」、つまり意思決定プロセスがユーザーにとって透明でないような機械学習モデルでは、説明がわかりにくくなる可能性があります。保険本業では説明のわかりやすさは重要ですが、顧客体験の向上やプロセスの効率化などの分野では、説明可能性がそれほど重要でなく、こうしたブラックボックスAIモデルは依然として大きな可能性を秘めています。
· ハノーバーに拠点を置くデータ分析部門の責任者として、インリンは2022年に元受保険部門からハノーバー再保険に入社。
"データだけでは保険会社に直接的な価値を提供できません。データの真の価値を引き出すのは、専門家によるデータ分析です。"
生命保険会社はどのようなデータにアクセスできますか?
保険会社は様々なデータにアクセスできます。資本管理のための資産関連データに加え、保険業界に特有なのは保険負債データであり、一般的に保有データと外部データの2つに分けられます。保有データには、年齢、性別、保険金受取人の情報、保険金請求の詳細など、保険契約や契約者情報が含まれます。保険商品によっては、医療、ライフスタイル、財務データも含まれます。外部データとは、一般に入手可能な人口統計や外部の専門家から入手したデータを指します。人口統計の入手可能性は、例えば国勢調査などによる国家統計局によるデータ収集と、そのようなデータを一般に公開するかどうかの方針に依存します。外部の専門家によるデータは、個々の市場におけるデータ保護規制によって制限されます。
これら2種類のデータの典型的な使用例とはどんなものですか?
どちらのデータソースも、生命保険会社や医療保険会社が戦略的に利用することができます。保有データは、保険会社固有のポー トフォリオにおける経験を把握するため、ポートフォリオ管理のため、また、将来的に類似市場における類似商品の引受けのために利用することができます。外部データの母集団データは、死亡率や罹患率トレンドのベースラインとして利用でき、新市場で新商品を発売する際には特に重要になります。もしあるのであれば、より細かい外部データを利用し、例えばベースラインの推定を精緻化することができます。さらに、どちらのデータソースについても、カスタマージャーニー全体を通じて、総合的な顧客体験を向上させるために利用することができます。
保険会社にとって、専門的なデータ分析アプローチにはどのようなメリットがありますか?
データだけでは保険会社に直接的な価値を提供することはできません。データの真の価値を引き出すのは、専門家によるデータ分析です。ここでは3つの重要な分野に焦点を当ててみます。第一に、プライシングとバリュエーションにおいて。データ分析はより高度な最良推計を提供します。これにより、保険料は適切な水準に設定され、保険会社は契約者に最適な保障を提供するために十分な保険契約準備金を確保することができます。第二に、リスク管理において。規制の厳しい保険業界において重要なリスク管理は、データ分析によるポートフォリオのモニタリングと将来のリスク定量化によって強化されます。これにより、タイムリーなプランニングと戦略的な意思決定が可能になり、財務の安定性が強化されます。最後に、商品開発において。データ分析は保険会社が進化するトレンドに適応し、健康アプリのようなIoTデバイスをベースにした健康増進型商品など、革新的なソリューションを生み出すのに役立ちます。
データ保護対策と意味のあるデータ分析の促進をどのように両立させるにはどうしたらいいですか?
今日、ビジネスデータと個人情報の両方を保護することの重要性は誰もが認識しております。保険の専門家、特にデータ・アナリストは、個人情報の取扱いに関する遵守事項を厳守し、当たり前ですが、法で定める範囲内で業務を行うことが重要です。分析においては、アナリストは個々の保険契約者を後で追跡できない匿名情報データを使用します。パターンを特定することで、生物統計学的なトレンドがどのように発展し、消費者がどのように行動する可能性が高いかについて、データに基づいた予測を行うために匿名データを使用します。話は変わりますが、データ保護要件を満たすことに加えて、EUが「AI法」を導入したことからもわかるように、AIの規制が重要性を増していることは注目に値します。これは、テクノロジーの法的・倫理的ガバナンスにおける重要な一歩であり、私たちの業界におけるAIの利用にも影響を与えると思われます。
金融数学の博士号を持つインリンは、4ヶ国語に堪能で、創造性、合理性、柔軟性、決断力を兼ね備えている。
インリンは、ハノーバー再保険の国際的な職場環境と協調的精神への情熱に共感し、ハノーバー再保険に入社。信頼し合い、透明性のある企業文化の醸成に尽力し、継続的かつ持続可能な改善を推進することに挑戦している。
"保険業界に多面的な変化をもたらすデータ分析は、現代社会の急速な変化とともに、エキサイティングな未来を導きます。"
生命保険会社や医療保険会社は、データ分析に関してどのような課題に直面していますか?
主な課題は、データの責任ある利用、柔軟性と効率性の追求、保険本業に対するモデルのわかりやすさという3つの側面を中心に展開されます。データの責任ある利用を保証するには、法令遵守、プライバシーへの配慮、社会的偏見や不平等を強めてしまう事態の回避が求められます。柔軟性と効率性に関しては、体系立っていない質の低いデータや時代遅れのITインフラによってデータ分析が妨げられないようにするには、標準化とカスタマイズのバランスをとる設計と、技術的欠陥をタイムリーに解消することが必要になります。保険業界のコアビジネスにとって、リスクとモデルを理解することはビジネスの舵取りに不可欠ですので、これまでの統計モデルを改善したり、人にもわかる形で説明ができるAIを探求することでリスクとモデルの理解ができます。
元受保険会社はハノーバー再保険のデータ分析における専門知識からどのような利益を得ることができますか?
私たちのダイナミックなチームは、強力な統計的バックグラウンドと多様な専門知識を持つ高度なスキルを持った人材で構成されています。私たちはコラボレーションを受け入れ、グローバルに考え、ローカルに行動し、お客様固有のニーズを優先させます。元受保険会社は、複雑なリスクモデリングやニッチ市場の分析における当社の専門的ノウハウから恩恵を受け、社内では得られないかもしれないインサイトを得ることができます。当社の「hr|bluebox」サービスは、当社における協業の良い例であり、当社がいかに顧客と手を取り合っているかを示すものです。
「hr|bluebox」は興味深いコンセプトですね。詳しく教えてください。
パーソナルなデータ分析をサービスとして提供する「hr|bluebox」は、私たちの効率性とお客様への有効性を調和させ、相互に有益なアプローチを通じて財務的価値を創造するように設計されています。標準化されたソフトウェア・ソリューションを提供するのではなく、オーダーメイドのサービスを提供することで、さまざまな市場、製品、ビジネス・ニーズ特性を尊重します。実際、私たちのサービスを「bluebox」と呼んでいるのには理由があります。それは、私たちの透明性へのコミットメントの証であり、ブラックボックス・ソリューションの隠された仕組みと意図的に対比しております。世界中から集められた社内の専門知識と専門家による熱心なリサーチにより、私たちはそれぞれのビジネスケースとデータを徹底的に理解し、特定のビジネス上の問題を解決するための実行性ある提案を元受保険会社に提供することに軸足を置いています。
「hr|bluebox」サービスはどこまでの範囲を扱いますか?
現在の取扱範囲は、契約者の行動を理解し、商品内容を改善し、保険引受の最適化をサポートし、一般的な技術的アドバイスやモデルの検証を提供することが中心ですが、それだけに限定されるものではありません。具体的な例としては、早期解約・失効分析、潜在的なクロスセルやアップセルの機会に関するパターン認識などがあります。早期解約はしばしば保険者の収益性、キャッシュフロー、事業計画に影響を与える損失をもたらします。「hr|bluebox」は、人にもわかる形で説明ができるAIを使用して、これらのイベントの背後にあるパターン、トレンド、ドライバーを特定し、対策のための推奨策をご提示します。保険会社の収益やカスタマーリレーションの構築において極めて重要な潜在的なクロスセルやアップセルの機会に関しては、「hr|bluebox」は予測モデリングにより、適切なリスクプロフィールを持つ保険契約者の中から、追加保障や増額に興味を持つ可能性の高い保険契約者を特定します。
生命保険とデータ分析における最も重要なトレンドとは何ですか?
将来について正確な予測をすることは非常に難しいですが、新たなデータ・ソースの利用、ITや医療技術の進歩、気候変動、ライフスタイルの進化や社会的な健康意識の高まりに伴う社会人口統計学的なシフトなど、いくつかの指標は生命保険・医療保険市場発展の可能性を示しています。これらのトレンドは、商品設計やプライシングの前提から、保険会社の社会的責任に重点を置いた保険会社と保険契約者の相互関係の再構築に至るまで、様々な形で業界に影響を及ぼしています。例えば、デジタルでアクセスしやすく、社会的に公正な商品への需要が高まっています。データ分析は、こうした動きすべてにおいて重要な役割を果たしており、新たなチャンスを広げるだけでなく、関連するリスクの軽減にも役立っています。
保険会社はどのようにすれば、変わりゆく社会の中で競争力を維持していけますか?
現代社会における変化のペースの速さは、保険業界に多面的な変化をもたらすデータ分析は、現代社会の急速な変化とともに、エキサイティングな未来を導きます。このダイナミックな情勢を乗り切るためには、市場の動向を常に把握するだけでなく、変化や課題に対して組織全体で前向きな考え方と機敏な企業文化を醸成することが極めて重要です。我々ハノーバー再保険ではこれを「future readiness」と呼んでおります。これは、特に最近のコロナ禍において不可欠であることが示されました。競争の激化が予想される中、新たな手法の開発、最新のインフラ、専門知識を補完するパートナーシップへの投資は不可欠です。知識と技術を効果的に活用するためには、人的資源が中心であることに変わりはないため、人材の管理と確保が最優先されるべきです。
興味深い洞察をありがとうございます。データ分析が多大なチャンスをもたらすことは明らかですね
もちろんです!データの世界に飛び込むと、洞察の宝庫が広がり、絶え間なく発展するチャンスが生まれます。この仕事をさらに充実したものにしているのは、革新的なソリューションと価値ある洞察を顧客に提供できることです。データ分析がもたらす大きなインパクトに焦点を当てる機会をいただき、ありがとうございました!
ハノーバー再保険で働く傍ら、インリンは大学で教鞭をとり、また、絵を描くなどクリエイティブな活動に没頭することでリラックスしている。
Dr. Yinglin Zhang General Manager Life & Health – Data Analytics +49 511 5604-0036 yinglin.zhang@hannover-re.com
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