第8号

若年発症アルツハイマー型認知症

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アルツハイマー病（AD）は、進行性で不可逆的な脳の神経変性疾患であり、通常は高齢者が罹患し、認知症の最も一般的な原因として認識されている。アルツハイマー病には、早発型と遅発型の2つのタイプがあり、どちらも病因の一部として遺伝的要素を有している。[1] [2] [3]

序論と背景

本書では、遺伝的関連性の強い若年発症アルツハイマー病（EOAD）に焦点を当てる。[4] EOADは65歳以前に発症し[5] [6], 30歳から60歳の間の発症が最頻値となる。[1]. EOADはアルツハイマー病の変種としては少なく、全アルツハイマー病診断の約1〜6％を占める。[1]

病態生理学的には、アルツハイマー病はアミロイドβペプチドの除去が障害されることにより特徴づけられ、その結果、脳内にアミロイド斑とタウ蛋白の蓄積が生じ、神経原線維のもつれを引き起こす。[7] この病態は、最終的には神経細胞の結合の喪失、神経細胞の死、脳の萎縮、特に脳の海馬と大脳皮質における萎縮をもたらす。臨床的には、これらの病理学的変化により、記憶障害や認知機能障害が生じ、他の診断上の特徴と併せて、アルツハイマー病の病的特徴となる。[3] [7]

アルツハイマー病の特徴は、記憶喪失から判断力や推論力の障害に至るまでの進行性の認知機能低下である。アルツハイマー病は、短期および長期の記憶障害とともに、以下の高次脳機能の1つ以上の障害として現れる：[6] [8] [9] [10]

  • 知覚
  • 判断
  • 抽象化
  • 言語
  • 問題解決
  • 性格

EOADの診断には、一般的なアルツハイマー病と同様、認知機能検査、神経画像検査、バイオマーカー検査、遺伝子検査などの臨床評価を含む包括的な評価を伴う。[8] [10]

アルツハイマー病の病因には、遺伝的、環境的、後天的な危険因子が複雑に絡み合っている。しかし、EOADと診断された症例のかなりの割合において、遺伝が主要な原因として優勢を占めていると考えられている。EOAD症例の約60〜70％は遺伝子の突然変異に起因すると言われている。 [1]. 従って、EOAD症例の30〜40％は、他の未知の遺伝的因子、あるいは環境因子や後天的な危険因子との関連が疑われ、これらは現在も(臨床試験で)調査中である。EOADの発症における遺伝学的要因としては、この病気は常染色体優性遺伝のパターンに従い、アミロイド前駆体蛋白（APP）、プレセニリン1（PSEN1）、プレセニリン2（PSEN2）という特定の遺伝子の変異に関連しており、10〜15％の症例がこれら3つの遺伝子の変異に起因している。[2].

影響を受ける遺伝子 [1]

プレセニリン 1 (PSEN1)

  • PSEN1遺伝子は染色体14qに位置する
  • タンパク質産物PSEN1をコードする
  • 150のPSEN1変異がアルツハイマー病との関連で報告されている。早発型家族性アルツハイマー病の最大50％を占める。
  • 変異は完全に浸透している
  • 発症年齢の中央値が43歳と早い。
  • 縦断的な親族研究において、臨床的な障害発症の10年以上前に前臨床的な認知機能低下が明らかになっている。

プレセニリン 2 (PSEN2)

  • PSEN2遺伝子は染色体1q上に位置する
  • タンパク質産物PSEN2をコードする
  • PSEN2遺伝子変異は20例未満しか報告されていないため、早発型家族性アルツハイマー病の中で最もまれな病型である。
  • 報告されている症例の発症年齢は、APPやPSEN1の変異の場合よりも遅く、PSEN2変異の場合はより幅広く変動する。
  • 変異は95％の浸透率と推定されるため、疾患の原因となる変異を有する患者の最大5％は生涯アルツハイマー病の症状を発症しない。

アミロイド前駆体タンパク質 (APP)

  • APP遺伝子は染色体21q上に位置する。
  • タンパク質産物APPをコードする。
  • この遺伝子の30以上の変異がアルツハイマー病との関連で報告されており、早発型家族性アルツハイマー病の10～15％を占める。
  • 変異は完全に浸透しており、発症年齢は親の発症年齢と密接に相関している。
  • すべての変異型における発症年齢の中央値は約49歳である。

EOADの疫学

EOADは非常にまれな疾患であり、この疾患に関する文献や集団ベースの研究は限られている。研究によると、アルツハイマー病症例の1％から5.9％がEOADとして発症している。[9] 有病率に関する研究は、情報源によって異なるようである。Medscapeは、EOADの発生率を年間新規症例10万人あたり約7人、有病率を10万人あたり15～35人と推定している[11], 一方、イギリスでの研究として、10万人年あたり54人の認知症発症率が全体の34％であったという報告や、イギリスでの人口ベースの研究として、10万人年あたり4.2人であったという報告がある。[7]

罹患率と死亡率

EOADはアルツハイマー病の侵攻型として認識されており、この疾患は罹患率と死亡率に重大な影響を及ぼし、罹患者、その家族、介護者に影響を与える。限られた文献ではあるが、EOADまたは早発型認知症は一般集団よりも5年死亡率が高く、平均余命が短くなることを示唆している。 罹患率の観点からは、この疾患の攻撃的な性質は、行動的、精神的、身体的健康合併症を伴う認知機能および機能低下を加速させる。EOADの早期診断により、個人生活や職業生活の最盛期にある個人に壊滅的な影響が及ぶことが多く、その結果、機能、自立性が低下し、最終的には身体障害を彦起こすこととなる。

治療

アルツハイマー病の治療の基本は症状管理である。現在、この病気には確立された治療法がなく、この病気に罹患しすべての人に一定の進行がみられるからである。治療には通常、集学的な医療チームが関与し、症状の管理と生活の質の向上に重点を置く。内科的治療では、患者の臨床プロファイルに応じて、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬、補助療法（抗うつ薬、抗精神病薬、抗けいれん薬）を用いる。組換えモノクローナル抗体はFDAの承認を得たが、臨床的有効性と忍容性を確認するために承認後の臨床試験が必要である。[7] [11] [12]

保険引受に関する考慮事項

EOADは、保険引受に際して、独特でありながら重大な罹患率および死亡率の懸念をもたらす。[6] 家族性の遺伝パターンと浸透性の高い遺伝子変異は、必然的な病気の進行と平均余命や生活の質への影響とともに、EOADのリスク評価を極めて困難なものにしている。地域によっては遺伝子検査に関する業界規制があることも、EOADの保険引受をさらに複雑にしている。しかし、進化する医学研究と進歩が、将来EOADの予後見通しを改善する可能性があるという希望は残っている。

Author

Dr Krishnaveni Govender

Medical Doctor

Hannover Re South Africa Limited

参考文献

  1. Rick Sherva, PhD, Neil W Kowall, MD. Genetics of Alzheimer Disease. 19 May 2022. Available from: https://www.uptodate.com/contents/genetics-of-alzheimer-disease?search=early%20onset%20alzheimers&source=search_result&selectedTitle=1~13&usage_type=default&display_rank=1 Viewed on 10 June 2024.
  2. National Institute on Aging. Alzheimer’s Disease Genetics fact Sheet. Content reviewed: March 1, 2023. Available from : https://www.nia.nih.gov/health/alzheimers-disease-genetics-fact-sheet. Viewed on 10 June 2024.
  3. Shaheen E Lakhan, MD,Phd, MS, Med, FAAN; Chief Editor: Jasvinder Chawla, MD, MBA ; Heather S Anderson, MD.Alzheimer Disease Guidelines.7 July 2023. Available from: https://emedicine.medscape.com/article/1134817-overview#a7. Viewed on 5 June 2024.
  4. Benjamin A Raby, MD, MPH. Inheritance patterns of monogenic disorders (Mendelian and non-Mendelian). 6 July 2023. Available from: https://www.uptodate.com/contents/inheritance-patterns-of-monogenic-disorders-mendelian-and-non-mendelian?search=autosomal%20dominant&source=search_result&selectedTitle=1~150&usage_type=default&display_rank=1#H1177464532. Viewed on 4 June 2024.
  5. Xi-Chen Zhu, Lan Tan, Hui-Fu Wang, Teng Jiang, Lei Cao, Chong Wang, Jun Wang, Chen-Chen Tan, Xiang-fei Meng, Jin-Tai Yu. Rate of early onset Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. 3 March 2015. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4356853/. Viewed on 10 June 2024.
  6. Albert Llado, Raquel Sanchez-Valle. Focusing on Atypical Symptoms for Improved Diagnosis of Early-onset Alzheimer's Disease, 2011. Available from: https://www.medscape.com/viewarticle/749070 and https://www.uptodate.com/contents/epidemiology-pathology-and-pathogenesis-of-alzheimer-disease?topicRef=5073&source=see_link. Viewed on 5 June 2024.
  7. C.Dirk Keene, MD, PhD, Thomas J Montine, MD, PHD. Epidemiology, pathology, and pathogenesis of Alzheimer disease. 23 August 2022. Available from: https://www.uptodate.com/contents/epidemiology-pathology-and-pathogenesis-of-alzheimer-disease?topicRef=5073&source=see_link. Viewed on 4 June 2024.
  8. David A Wolk, MD, Bradford C Dickerson, MD. Clinical features and diagnosis of Alzheimer disease. 8 October 2021. Available from: https://www.uptodate.com/contents/clinical-features-and-diagnosis-of-alzheimer-disease?search=clinical%20features%20of%20alzheimers%20disease&source=search_result&selectedTitle=1%7E150&usage_type=default&display_rank=1. Viewed on 4 June 2024.
  9. Heyman A, Wilkinson WE, Hurwitz BJ, Helms MJ, Haynes CS, Utley CM, Gwyther LP : Early-onset Alzheimer's disease: clinical predictors of institutionalization and death. Neurology. 1987 Jun;37(6):980-4. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3587649/ . Viewed on 10 June 2024.
  10. Juebin Huang, MD, PhD. Alzheimer Disease. February 2023. Available from: https://www.msdmanuals.com/professional/neurologic-disorders/delirium-and-dementia/alzheimer-disease#Pathophysiology_v8417862. Viewed on 3 June 2024.
  11. Daniel Press, MD, Stephanie S Buss, MD. Treatment of Alzheimer disease, 30 September 2021. Available from: https://www.uptodate.com/contents/treatment-of-alzheimer-disease. Viewed on 4 June 2024.
  12. Koedam EL, Pijnenburg YA, Deeg DJ, Baak MM, van der Vlies AE, Scheltens P, van der Flier WM: Early-onset dementia is associated with higher mortality. Dement Geriatr Cogn Disord. 2008;26(2):147-52. doi: 10.1159/000149585. Epub 2008 Aug 4. Available form: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18679029/. Viewed on 10 June 2024.

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